2015年春季低温工学・超電導学会 セッション報告

5月27日(水)
A会場 10:15-17:30

Y系線材 1A-a01-06 座長 飯島 康裕

「Y系線 材」セッションにおいては、Y系線材の目下の課題である製造コスト低減へ向けた基板材料や中間層の工夫、
フッ素フリーの液相プロセス、及び、一層の特性向上へ向けた新しいコンセプトの人工ピン等の報告が行われた。
「1A-a01:土井 (京大)」京大の土井らは、低コストなステンレスとNi配向箔のクラッド構造基板に、導電性中間層
を適用することで更なるコスト要因であるAg安定化層省略を検討している。現状は短尺試験サンプルのみであるが、
基板が安定化層として機能しているか把握するために実践的な抵抗評価の方法について議論があった。
「1A-a02:一ノ 瀬(電中研)」電中研の一ノ瀬らは、低コスト基板の候補であるゴス方位の圧延鉄基板を用いた2軸
配向構造を実現可能なCSZ及び CeO2中間層の構造解析を報告した。Fe表面上のCSZ膜は<111>軸配向を含み、徐々に
<100>軸が選択成長することを利用しており一定の膜厚が必要となるが、電顕観察により選択成長機構に繋がる新たな
知見が得られた。
「1A-a03、1A-a04: 大嶋(山形大)」山形大の大嶋らは、NMR用検出コイル材としてフレキシブルなセラミックス基板
上のY系薄膜応用を検討しており、曲げ歪等によるJc変動を測定するために永久磁石に働く斥力を用いたJc測定法を
提案するとともに、MgO基板上のBZOナ ノ微粒子を用いた基板修飾法による人工ピン導入が、20 Kにおいて基板平行
磁界下におけるGHZ超の高周波の表面抵抗低減に有効なことを示した。
「1A-a05:堀出 (九工大)」九工大の堀出らは、ロッド状1次元ピンとナノ粒子状ゼロ次元ピンを組み合わせたハイブリッド
人工ピンの機構解明に向 けて、BSO ロッド+Y2O3粒子を加えたYBCO膜のJcの磁場角度依存性をvortex staircase
モデルに基づいて解析し、accommodation angle においてkinkを仮定したモデルの限界が現れていること等で、妥当性
の検証が可能なことを示した。
「1A-a06:元木 (東大)」東大の元木らは、Cl、Snをドープしたフッ素フリーMOD法において、従来のTFAには見られ
ない異なる新たな構造 として10 nm程度の大きさで分布したBaSnO33微結晶等を発見し、高速合成を期待できるフッ素
フリー法において明瞭な磁場角度依存性の変化が確認され、低コストプロセスにおいて有力なピン導入の可能性が
開けた。線材応用においては金属基板適用のため反応温度の低減が不可欠であり、Clドープはその意味でも有効で
あるが、今後は低温化と高速成長、高ピン力といった特徴が両立する 領域が確立されていくことが期待される。


電力応用 1A-p01-04 座長 柁川 一弘

1A-p01:木村(明治大)らは、高温超電導テープ線を用いた電磁力平衡ヘリカルコイルについて、液体ヘリウム温度で
動作する最大磁束密度1 Tのモデルコイルを設計し、エッジワイズの曲げ歪みを極力小さくした巻線方法について理論的
に検討した。
1A-p02:鎌田(明治大)らは、高温超電導テープ線を用いた電磁力平衡ヘリカルコイルについて、3Dプリンタで成型した
治具を組み合わせた専用巻線機を試作し、4方向の回転動作を自動制御するプログラムを用いて、1ターンのヘリカル巻線
に成功した。
1A-p03:津田(東北大)らは、試作したBi-2223コイルと銅コイルを任意に組み合わせた磁気共鳴型非接触電力伝送特性
を実験的に評価した。伝送効率や伝送電力の周波数依存性を実測することにより、最適な組み合わせや効果的に動作する
周波数領域について検討した。
1A-p04:東川(九大)らは、市販の実時間デジタルシミュレータを用いたハードウェア閉ループ試験システムを構築し、
ダウンスケーリングした超電導線材の過電流通電時の挙動を等価的に組み込むことにより、鉄道用の直流き電系統に導入
した超電導限流器の動作を模擬し、その有用性を確認した。


磁気軸受 1A-p05-09 座長 植田 浩史

本セッションは、NEDO助成事業「次世代フライホイール蓄電システムの開発」の関連発表であった。
1A-p05 長谷川(鉄道総研):本発表は、プロジェクトの概要報告で、数値目標および実施項目について説明があった。
実証機の仕様は、ロータ4000 kg、定格回転数3000~6000 rpm、容量1000 kWhである。軸受は、ロータ側にREBCOバルク、
ステータ側にREBCOコイルを使用する。
1A-p06 古川(古河電工):高耐荷重・低熱侵入のSMBの設計と熱解析の結果を報告した。熱輻射5 W/m2、電流リードの
侵入熱10 W@30 K、0 W@300 Kと仮定して設計・解析した結果、バルクは24 Kまで冷却可能であること、コイル温度は
17.0~17.8 Kとほぼ均一になることが示された。運転温度は50 Kを想定しているため問題ない。質疑では、浮上力の
計算で完全反磁性モデルを仮定していることの妥当性について議論があった。
1A-p07 中尾(古河電工):冷却特性試験、荷重試験結果の報告であった。HTSコイルは冷凍機伝導冷却、HTSバルクは
ヘリウムガス冷却である。冷却試験では、概ね、前発表1A-p06の設計通りの結果が得られた。コイル温度30 Kでは、
定格電流77 Aで40.3 kN(計算値の95%)の浮上力が得られた。運転温度50 Kでは、バルクへの磁場侵入が増えるため、
浮上力は計算値とかい離するが、電流を上げることで39.8 kNが得られる。また、磁束クリープの浮上力の低下は電流を
上げることで対応可能とのことであった。
1A-p08 山下(鉄道総研):高強度で断熱性に優れるアルミナ繊維とエポキシ樹脂からなる複合材料(AFRP)と直径の
異なる2種類のHTSバルクを組み合わせた荷重支持体を開発した。
1A-p09 宮崎(鉄道総研): 開発する磁気軸受は、ロータ側にREBCOバルク、ステータ側にREBCOパンケーキコイルを使用
するが、軸受回転時に、振動によりパンケーキコイル間の冷却銅板に渦電流が生じて発熱する可能性がある。そこで、
銅板を、直径1 mmの銅線のポリエステル繊維で織りこみメッシュ状にしたもの(280分割に相当)に変更して低発熱化を
図った。メッシュ材は、20~50 Kで熱伝導率150 W/mKとなり、コイル冷却が十分可能である。


5月27日(水)
B会場 10:15-17:00

回転機 1B-a01-06 座長 星野 勉

研究開始から12年を経た京都大学を中心とした研究チーム(JASTEC、イムラ材研、アイシン精機、産総研、新潟大)に
よる誘導同期電動機 (HTS-ISM)6件の発表であった。
1B-a01は、固定子巻線を超電導化し、全超電導電動機の開発を目指すものであった。Gd系テープ線材でレーストラック
型コイルを短節巻に固定 子鉄心に収めた形式である。固定子巻線を超電導化することによって、電機子電流を増すこと
ができ、惹いてはひいてはトルク密度の向上につながる。
1B-a02は、一時的に出力増大させるため、動作温度を下げる運転方法について、10 kW級HTS-ISMを対象としたJMAG™を
用いた2次元解析による検討がされ、77 Kか ら65 Kにすることで出力が5割増しになることが示された。
1B-a03は、体積を7割にした20 kW級HTS-ISMの開発現状と将来展望に関する発表で、全負荷試験の結果が示された。
1B-a04は、50 kW級HTS-ISMの電磁設計に関する発表で、超電導体を回転子に埋込み、リラクタンストルクを発生させて、
トルクブーストする効果に関する2次元 電磁 界解析の検討が報告された。
1B-a05は、冷却方式に関するもので、固定子を冷凍機による伝導冷却し、固定子は回転ギャップ中のヘリウムガスに
よって対流冷却方式の提案で あった。端部効果は別として、1次元伝熱モデルによる解析では、一次的過加熱は鉄心の
熱容量で吸収し、冷凍機への冷凍要求を押えることが可能であることが示された。
1B-a06は、可変速運転に向けた無負荷速度応答特性の実験とシミュレーションによる結果が示された。通常の電動機にも
現れる不安定性(速度変 動)があり、超電導機特有のものではないと考えられる。


鉄系線材 1B-p01-04 座長 下山 淳一

福岡工大の顧ら(1B-p01)は(Sr,K)122線材の交流磁場重畳法による臨界電流特性の評価より磁束ピン止め機構を解析
した結果を報告した。20-30 Kの温度域においてLabuscchパラメタ―αLB3/2に比例する傾向にあり、従来のピンニング
理論によって説明可能であると結論した。
東北大の淡路ら(1B-p02)は銀シース(Sr,K)122テープ線材のJcの印加磁場角度性を調べ、テープ面に対して40°以上の角度で
Jcの変化が顕著になる傾向があるが、温度域によって振る舞いが異なること、テープ面に垂直な磁場を印加した場合の
ほうが、低磁場でJcがなるという単結晶薄膜同様の傾向が認められたことを示した。
東北大の小黒ら(1B-p03)は銀シース(Sr,K)122テープ線材の機械特性を報告した。線材のヤング率は60 GPa程度で、
0.25%以下の引張り歪に対して、TcJcに大きな変化が無いとのことであった。
東京理科大の石井ら(1B-p04)は(Ba,K)122線材の開発を行っており、他の開発例よりもKドープ量を低減(Baサイトの30%)
すること、KAsの添加により不純物相FeAsの生成の抑制を試みていることが特徴である。Jcは4.2 K, 2 Tで3.5 x 104 Acm-2
とまだ低いが、コアの密度の改善によって向上可能であるとした。


鉄系超伝導体(2) 1B-p05-07 座長 山本 明保

鉄系超伝導体のセッションでは3件の講演があった。
戸叶(NIMS、1B-p05)らはAg-Sn合金を被覆材としたPIT法Ba122テープ線材の作製について報告した。従来のAg被覆材を
用いた場合と比較して、より低い熱処理温度でもBa122相が得られ、微量のSnが超電導コア中に拡散した可能性を指摘した。
] また、Ag-Sn合金がAgと比較して硬度が高いことに由来し、機械的な強度が増加するとした。
高(NIMS、1B-p06)らは圧延法によって作製したSUS/Ag二重被覆Ba122テープの高磁界特性について報告した。Ag被覆のみ
と比較して、SUS/Ag二重被覆とすることで超電導コアの充填率の向上と配向性の改善がみられた。この結果、高磁界下に
おける臨界電流密度が向上し、4.2 K, 10テスラの磁場下で8.6×104 A/cm2が得られたことを報告した。
松本(慶応大、1B-p07)らは鉄系混合アニオン化合物Sr2CrFeAsO3-δの輸送特性について報告した。酸素欠損量δを-0.13から
0.48まで系統的に制御して作製した試料について、電気抵抗率の減少はみられたものの超電導は得られなかったことを指摘した。


5月27日(水)
C会場 10:15-17:45

冷却システム 1C-a01-05 座長 木村 誠宏

冷却システムのセッションは、5件の講演申し込みの内1件がキャンセルされ、最終的に4件が報告された。
セッション最初の講演、窒素サーモサイフォン型ヒートパイプの熱輸送能力向上に関する報告(1C-a01)では、二重管ヒート
パイプにおける温度上昇の発生原理の考察と二重管ヒートパイプの内管計を変化させた熱輸送能力の比較が報告された。
講演者らは、二重管ヒートパイプの熱輸送限界を決める要素として内管と外管との圧力差により外管を伝って液体窒素が
上昇する可能性があることが指摘された。
超1GHz-NMR 03:マグネットおよびクライオスタットの加圧超流動ヘリウム冷却(1C-a02)は、2011年の震災からの復旧後に行わ
れた定格温度1.8 K以下の加圧超流動ヘリウム冷却工程についての報告であった。加圧超流動ヘリウム冷却の結果、震災前に
比べてHTSコイルの接続抵抗とLTSの接続部の安定抵抗が発生源と推定されるジュール発熱の増加が認められた。この熱負荷
増加に対応するため排気ポンプの増設で対応したものの最終的には目標とするピーク磁場が達成されたことが報告された。
屋外観測対応超伝導重力計の設置(1C-a03)は、北海道苫小牧にCO2地中貯留モニタリングへの適用を目指した超伝導重力計の
設置環境と目的について報告された。現在の重力計の観測経過はCO2注入前の周囲環境の状態が主であり、その観測が気圧の
変化に影響を受けることが報告された。CO2注入開始後の観測報告を期待したい。
セッション最後の講演であるNIFS液化冷凍設備の更新と実験設備の増設(1C-a04)では、老朽化した液化ヘリウム冷凍設備から
新機能を備えた温度可変低温設備の更新が報告された。この報告では大型導体の試験に対応可能な13 T級の高磁場試験装置の
整備についても紹介された。今後行われる同設備の本格的な運用についての報告を期待したい。


デバイス(1) 1C-p01-05 座長 前澤 正明

本セッションでは金属系超伝導体によるデジタル回路応用を中心に5件の講演があった。
「1C-p01:佐野(横浜国大)」では、消費電力低減のためのバイアス電流リサイクル回路に関する実験が報告された。
非実用的な回路で実験されているため結果に疑問が残る。
「1C-p02:知名(横浜国大)」では、磁束量子パラメトロンと単一磁束量子回路を接続するインターフェイス回路の
設計が報告された。回路レベルの同期の実現が今後の課題である。
「1C-p03:大田(埼玉大)」では、超伝導単一光子検出器の読み出し回路の設計が報告された。分布定数やケーブル
を考慮したシミュレーションが今後の課題である。
「1C-p04:田中(名古屋大)」では、小型化した超伝導磁束遷移メモリセルの動作結果が報告された。プロセス技術
改善で0.25μm設計ルールが可能になれば1メガビットRAMが実現できるとの見通しが示された。
「1C-p05:吉川(横浜国大)」では、単一磁束量子回路を用いた高速フーリエ変換器の設計と要素回路の動作結果が
報告された。冷凍機に実装した場合の振動の影響が質問され、振動に誘起される電気的雑音は問題であるとの回答で
あった。


デバイス(2) 1C-p06-10 座長 吉川 信行

1C-p06:松村(JAXA)では、走査透過型電子顕微鏡(STEM)用エネルギー分散X線分光(EDS)に用いるための超伝導転移端(TES)
型マイクロカロリーメータアレイの作製技術に関する研究が行われた。TES型マイクロカロリーメータは、マイクロブリッジ
の温度測定を通してX線のエネルギーを同定するもので、従来の半導体検出器に対して高いエネルギー分解能が期待できる。
本研究では、X線のカウントレートを上げるために、64ピクセルアレイの作製を行った。電極におけるノーマル層の排除と
リフトオフが容易なレジスト断面形状の工夫により、良好なTESアレイを作製した。今回計測した7ピクセルにおいて10 eV
以下のエネルギー分解能を得た。
1C-p07:黒丸(首都大)では、小型科学衛星(DIOS)搭載用のTES型X線マイクロカロリーメータアレイの作製プロセスの開発
を行った。本研究では積層配線の利用により、ピクセルアレイの高密度化を狙っている。
1C-p08:石川(名大)では、超伝導磁気ランダムアクセスメモリへの応用を目指して、SQUID上に配置した磁性薄膜(PdNi)の
磁気特性の測定を行った。キュリー温度の膜厚依存性の測定を通して、膜厚やNi割合を制御することで、磁気特性を制御できる
ことを示した。
1C-p09:永沢(産総研)では、大規模超伝導集積回路の開発を目的として、Nb標準集積回路プロセスのSO2層間絶縁膜の成膜
方法の検討が行われた。これまでのバイアススパッタ法による方法に対して、プラズマ支援CVD法は成膜レートが早くチップ
製作期間の短縮が期待できる。本研究では、チップ上の凹凸の被膜性の向上について検討が行われた。
1C-p10:大嶋(名大)では、YBCO高温超伝導体薄膜のマイクロ波応用を目指して、小型分波器の開発が行われた。共振器の
形状の工夫により従来設計に対して格段に小さなフィルタを設計し、4.85 GHzと4.95 GHzの2分波特性を有する分波器の開発
に成功した。


5月27日(水)
D会場 10:15-17:45

磁気分離 1D-a01-06 座長 岩熊 成卓

本セッションでは、大阪大学を中心とする研究グループと宇都宮大学を中心心とする研究グループから、それぞれ3件
ずつの発表があった。
大阪大学からの一つ目の発表として、有機化合物の製造工程における構造異性体同士の分離を、磁気アルキメデス法を
用いて行う手法の提案と検証実験結果が報告された。大阪大学の残り二つの発表は、いずれも火力発電所の給水(ボー
ラーで熱し、水蒸気として発電機タービンを回転させる。クローズドループで再利用される。)中のスケール除去を磁気
分離を用いて行い、発電効率の低下抑制、フィルター洗浄間隔の延伸を目指すものであった。研究グループでは、模擬
スケールを作製し、スケールの生成過程と磁気分離条件を検討するとともに、シミュレーションと実験により、長期に
わたるスケール除去に適したフィルターの構造について設計検討を行っている。
宇都宮大学の研究グループは、磁性粉のコストダウンにより、凝集磁気分離が、従来の凝集沈降に対して競争力を持ち
うる状況になりつつあるとして、実環境下におけるコスト見積が可能な(従来方式との比較が可能な)模擬装置の試運転
を行うとともに、これを酪農排水三次処理、下水処理に適用した際のパイロットプラントをそれぞれ作製して実証実験を
行い、これらの実現可能性を示唆した。


セシウム分離 1D-p01-03 座長 酒井 保蔵

本セッションでは放射性セシウムの除去技術に関して、除染への超電導磁気分離応用では第一人者である西嶋ら(大阪大)
の研究グループから1件、バルク超電導磁石の活用を推進している岡ら(新潟大・他)の研究グループから1件の報告があった。
1D-p01-02 土壌中のセシウム除去に関して、行松ら(p01)は磁気分離条件について、秋山ら(p01)は前処理について報告
した。セシウムを強く吸着する2:1型粘土鉱物は常磁性のため超電導バルク磁石で土壌中から最大97%以上(7 T)分離
できた。また、前処理では土壌中の砂れき表面に付着した粘土物質を研磨によって剥離させ、カリウム肥料を加え、1:1
粘土鉱物からセシウムイオンを溶出させ2:1粘土に移行させる処理を行うことで、より効果的に超電導磁気分離による除染
を行うことができた。移行処理で加える水汚染の問題、カリウム肥料を用いた理由、カリウムとセシウムの吸着親和性の
違い、砂れき内部のセシウムの存在などについて活発な議論があった。
1D-p03 町田ら(新潟大)は飛灰から溶出させたセシウムイオンを紺青法で回収するプロセスに磁気分離の導入を検討した。
磁気シーディング技術により沈殿を強磁性化し、永久磁石を用いた磁選機(前段)と超電導バルク磁石による磁気分離
(後段)を組合せた高速分離法により、最大99%以上の除去率を得た。溶出前の飛灰の放射能濃度から上記技術でどこまで
濃縮すべきかといった技術戦略的な面での議論があった。




5月27日(水)
P会場 ポスターセッションI 13:35-14:50

HTS特性評価 1P-p01-04 座長 井上 昌睦

1P-p01:笠羽(富山大)らは、DI-BSCCOテープ線材の引張試験を10万回繰り返した際のIcの劣化挙動について報告した。
ステンレス補強されたHT-SS線材においては仕様上の許容引張り応力(270MPa)の95%に相当する259 MPaでの繰返し
引張試験(10万回)後でも初期Icの98%を維持していることを確認している。繰返し試験中のIcにはわずかにばらつきが
見られるが、長時間の試験における測定環境(液体窒素環境下における圧力や温度)の変化に伴うものと考えられる。
1P-p02:原(新潟大)らは、高温超伝導ケーブルの各層に生じる交流損失を熱的測定法による測定する手法について報告
した。2層ツイストHTSケーブルのHTS線材表面に熱電対を取り付け、その表面を発砲スチロールにより断熱させる構造と
し実験を行ったところ、各層の交流損失を定量的に計測することができたとのことである。各層の通電電流の方向や比率を
変化させた際の特性も得ることに成功している。
1P-p03:多田(新潟大)らは、鉄心内に挿入された高温超伝導集合導体の交流損失を熱的測定法で計測した結果について
報告を行った。積層した集合導体の1本ずつの交流損失計測を熱的測定法により実現しているのが特徴で、その結果は積層
導体の内層の線材の損失が著しく低いなど、予想される結果を定性的に支持するものとなっていた。詳細な議論には、鉄心
からの漏れ磁場の空間分布や超伝導線材のシールド効果などを考慮した解析が必要となる。今後の進展が期待される。
1P-p04:上野(九大)らは、鞍型ピックアップコイル法によるREBCOテープ線材の磁化緩和特性の評価について報告した。
鞍型ピックアップコイル法は、磁界掃引停止直後から磁化緩和特性が計測できる点と、試料線材を複数枚積層した場合も
校正無しで定量的評価が可能な点が特徴な磁化特性計測手法である。今回、積層枚数が多いほど磁化緩和が緩やかになること
を実験的に明らかとした。これは、線材の積層により遮蔽電流ループのインダクタンスが大きくなったためと考えられる。
実際の超伝導マグネットでは線材は多数枚積層されていることから、遮蔽電流の減衰時定数を考察するさいには、この影響を
考慮しなければならないとのことである。


MgB2線材(1) 1P-p05-09 座長 一木 洋太

1P-p05:藤井(NIMS)らは、市販MgB2粉末を原料とするex-situ法線材において、還元剤(Ca、CaC2、CaH2)によるMgB2粒周囲の
MgO除去の効果について報告した。還元剤を混合した粉末、それにさらに粉砕処理を加えた粉末を使用して線材を試作・評価
した結果、粉砕処理によるJc向上の効果はいずれの試料でも見られた。使用した還元剤の中で最もJc向上に効果があったのは
Caであり、そのメカニズムは考察中とのこと。
1P-p06:齊藤(芝浦工大)らは、PIT法によるMgB2線材の加工方法の影響に関して報告した。スウェージング、スウェージング+
線引き、溝ロール圧延+線引きの3種類の加工法で、φ6-3.5 mm(外-内径)→φ1 mmに加工した結果、スウェージングのみで
加工した線材が最も断面形状が良好であり、Jcが高いことを示した。
1P-p07:大内(東海大)らは、B粉末の内側と外側にMgを配置する拡散法MgB2線材の特性について報告した。線材断面の元素分析
の結果、従来の外部拡散法に対して反応割合は高いが、現状では明確なJc向上の効果は見られていない。
1P-p08:鑪(九大)らは、MgB2線材のホール素子による局所臨界電流分布の非破壊評価手法について報告した。従来は鉄などの
強磁性体がシース材の場合測定が困難であったが、飽和磁束密度以上の領域において増減磁時の差分をとることで、MgB2コア
に由来する磁化の信号を得ることが可能となった。通電法との比較および有限要素法解析による検証から、評価結果は妥当な
ものであり、非破壊評価法として有効である。
1P-p09:安藤(上智大)らは、MgB2線材の常電導伝播について報告した。短尺の線材にヒータを取付け、クエンチ時の常電導
伝播速度を測定した。測定値に関し、文献値との比較、解析による妥当性検証が必要である。


Y系・MgB2バルク,鉄系超伝導体(1) 1P-p10-12 座長 内藤 智之

1P-p10:石原(鉄道総研) リング状に加工したRE系超伝導バルクを複数個積層させたマグネットの捕捉磁場特性について
報告した。2層積層型についてバルク間ギャップに対する中心磁場および径方向の磁場均一度を数値計算から見積もった
ところ、ギャップの増加とともに中心磁場は単調減少し、ギャップ15 ㎜でギャップ0 ㎜の55%に低下すること、磁場均一度
10%を半径20 mm内で実現するにはギャップを13~17 mmにする必要があることが示された。
1P-p11:赤坂(鉄道総研) 様々な形状に機械加工したMgB2超伝導バルク磁石の捕捉磁場特性について報告した。リング
形状バルクの中空部分の捕捉磁場はバルク中心から内円縁にかけて緩やかに増加する振る舞いが見られた。また、三角形
状バルクではその形状を反映した捕捉磁場分布が得られた。機械加工による材料の劣化が無いことや捕捉磁場特性が試料
形状に由来したことから、多結晶MgB2バルク磁石が各種機器応用に有望であることが示された。
1P-p12:辻岳(東大) 鉄系超伝導体BaFe2As2(Ba122)多結晶体における元素置換効果を報告した。AsサイトへPを置換した
場合、Tcは35%置換試料において最高の30 Kを示し、粒間臨界電流密度は40-45%置換試料で最大となった。一方、Feサイト
にCoを置換した場合、Tcは置換量6-12%の範囲でほとんど変化しない(8%置換で最高Tcを示す)が、粒間臨界電流密度は置換
量6%から12%にかけて単調に増加していき12%ドープ試料で最大値を示した。以上からBa122系の粒間結合性が過剰ドープ領域
で改善されることが示された。


超伝導応用 1P-p13-17 座長 津田 理

本セッションで印象に残った発表について以下で簡単にご報告する。
1P-p14 三島史人(大阪大):地熱発電で使用する熱交換器に、発電効率低下につながるシリカスケールが付着する
ことが課題となっておりこの課題解決による地熱発電の経済性向上が求められている。本研究は、温泉水中のスケール
低減を可能とする磁気分離法に関するものでスケールの原因物質であるケイ酸を磁気力を用いて除去することを試みた
ところ90%除去することに成功したとのことであった。今後は、連続処理化やスケールアップを考えているとのことだが
磁気分離に使用する磁石はネオジ系永久磁石であり、超電導技術の導入は経済性の点から難しいとのことであった。
また、温泉水の熱利用については、温泉業者の理解が得られにくい部分もあるとのことで実用化の難しさを改めて感じた。
1P-p16 :佐藤翔大(宇都宮大) 近年問題となっている放射性セシウムを含んだ下水処理施設の汚泥処理に関するもので
前処理を要しない磁気分離を適用することで、埋め立て処分が許されていない指定廃棄物扱いになるものを埋め立て
処分ができる状態(放射性汚泥の放射能残存率が20%程度の状態)にまでできるとのことであった。汚染汚泥の一部
を磁気分離装置に入れ、汚泥中の粘土物質をマグネットバーに付着させこれを逆流させることで汚染汚泥を回収する
とのことであったが、すべての汚染汚泥を磁気分離しなくても埋め立て処理できる状態にできることから、大量の汚染
汚泥処理に対して有効であるといえる。ただ、汚染汚泥の取り扱いには制約が多く、技術的に確立できたとしてもその
技術をそのまま現場で使用できるとは限らないため、実用化には時間を要する印象を受けた。
また、ここで使用する磁石がネオジ系永久磁石ということで、超電導技術や低温技術とは無縁の印象を受けた。


電気機器 1P-p18-20 座長 東川 甲平

1P-p18:進藤(九大)らは、超伝導変圧器と超伝導ケーブルの双方が用いられた系統について行った限流特性に関する
シミュレーション結果を報告した。それぞれの機器の特性は有限要素法によってモデル化し、系統のシミュレーション
はFortranによって行ったとのことだった。様々なケーブル長に対して検討を行った結果、ケーブル長が長いほど大きな
限流効果が発揮されていた。ケーブルのインダクタンスが大きくなった効果によるものと認められるが、インダクタンス
が大きくなることで系統の安定性に影響を及ぼす可能性もあり、今後の検討課題として考えられる。一方、系統の超伝導
化において、それぞれの機器だけではなく、その組み合わせによる効果や影響を議論できるようになった点は、重要な
進展と認められる。
1P-p19:田村(九大)らは、20 kW級の全超伝導電動機の界磁巻線の形状検討について報告した。界磁巻線の形状により、
トルクリプルが大きく変化することが報告されており、電機子巻線が超伝導化により集中巻線となっても、トルクリプル
の少ない回転子が構築できるのではないかと期待させるものであった。なお、20 kWという容量は、特に何かの応用を考えた
ものではなく、実験室レベルで実際に製作・評価を行える規模として設定されているとのことであった。応用先によって
検討事項が異なると想像できるため、次回は具体的な応用先についても言及して頂ければと思う。
1P-p20:YUN(九大)らは、風力用15 MW級REBCO超伝導発電機の設計について報告した。超伝導化によって発電機の軽量化
が期待されている分野であり、半超伝導化により100トンオーダまで重量を軽減できることが報告されているが、全超伝導化
によって数十トンまで軽量化できるとのことである。結果としては、磁界が低いほど軽量化が進むということになっており、
超伝導化による高磁界化のメリットを主張するものとは反対の結果になっていた。高磁界になるほど外側に大きな鉄ヨーク
が必要なためか、と尋ねたが明確な回答は得られなかった。とはいえ、これだけ軽量かつ大規模の発電機が実現可能であれ
ば、最終的に目標とする洋上風力発電を議論する上で大きな知見である。その他、トルクチューブの強度、特に事故時の
トルクに耐えられるのか、などの質問もあり、活発な議論があった。


電流リード 1P-p21-23 座長 宮崎 寛史

「1P-p21:坂本(東海大)」GFRPの円筒にYBCOテープ線材4本を巻きつけることで熱侵入量を低減した小型超電導電流リード
開発について報告があった。500 A級電流リードとしては熱侵入量27.1 Wと従来の1/2に低減したとのことである。
「1P-p22:髙橋(東海大)」nPAD-YBCO電流リードを伝導冷却中にて高温端、低温端の温度を変化させて、0.5 T磁場印加時の
通電試験を実施した結果について報告があった。
「1P-p23:髙橋(昭和電線)」nPAD-YBCO電流リードに使用している線材の繰り返し引張特性および電流リードのヒートサイ
クル試験結果について報告があった。




5月28日(木)
A会場 9:45-17:35

医療用加速器/NMR 2A-a01-07 座長 横山 彰一

本セッションでは、医療用加速器/NMRに関し7件の発表があった。
2A-a01:田崎(東芝)らは高温超電導回転ガントリー開発の日本医療機構プロジェクトの進捗概要を紹介。重粒子線の
回転ガントリーは常伝導では600トンの重量が問題であり偏向電磁石を高温超電導コイルで高磁場化することで200トン
以下の構成が可能となることを設計にて示した。2015年度は1/3サイズマグネットを試作する。
2A-a02:小柳(東芝)らは高温超電導回転ガントリー開発 (2)と題し、1/3 モデルマグネット用鞍型コイルの試作状況
について報告。設計では鉄心を用いた伝導冷却方式のモデルコイルを紹介。また、複雑なコイルを多軸巻線機による
巻線例を示した。
2A-a03:高山(東芝)らは高温超電導回転ガントリー開発 (3)と題し、複雑形状コイルの熱暴走挙動を解析にて計算。
冷却端を温度固定し、一部でノーマル発生した場合に熱暴走する電流値を解析にて求めた。
2A-a04:小柳(東芝)らは、JSTのSイノベで実施しているスパイラルセクタ型FFAG加速器向けモデルマグネット開発の
磁場設計について報告。線材の幅方向に最大0.17mm発生する巻線の位置ずれによる磁場均一度の影響を検討した。
2A-a05:高山(東芝)らは、スパイラルセクタ型FFAG加速器モデルマグネットにおいてRE系三次元ネガティブベンドコイル
の試作を評価した。負極性の巻線をプレプレグシートを共巻、加熱しながら固定し巻線した。この製作方法で試作した
コイルを通電試験した結果。劣化が無く良好な通電特性であった。
2A-a06:金(理研)らはHTSマグネットを用いたNMR/MRI開発における要素技術 (1) REBCO多芯テープ線材の開発における
内部スプリット技術のアイデアとその実証と題しテープ線材への機械式スプリット加工方法の検証を実施。超電導特性を
大幅に劣化することなく磁化特性を分割数分低減でき、良好な結果を得た。
2A-a07:金(理研)らは低包晶点Yb123バルクの結晶成長によるGd123テープ線間のブリッジ接続にて超電導接続を試みた。
部分的に800℃まで加熱するため赤外線ヒータと断熱材を組合せ接続部のみ高温にすることに成功し、接続を完成した。
特性は十分ではないが接続ができ、今後特性向上の研究開発を進める。


5月28日(木)
B会場 9:45-11:15

Y系通電・機械特性 2B-a01-06 座長 土井 俊哉

本セッションでは、RE-123超伝導線材の通電特性と歪特性に関して6件の発表があり、活発な議論がなされた。
2B-a01:東川ら(九大、ISTEC)は、磁界中局所臨界電流の長手方向分布評価システムを開発し、それを用いて長尺RE-123
線材の局所臨界電流を様々な磁場中で測定することに成功した。
2B-a02:井上ら(九大、ISTEC)は、磁気顕微鏡による線材内部のJc分布測定結果とX線マイクロCT測定・解析結果より、
長尺Gd-123線材における臨界電流制限要因を明らかにした。磁気顕微鏡による測定結果から線材内部の高Jc領域と低Jc
領域を特定し、それらの部分にマイクロブリッジを形成してJcの磁場・温度依存性を測定し、低Jc領域には何らかの欠陥
が存在することで電流パスの有効断面積が低下していることを明らかにした。そして、X線マイクロCT測定結果より、低Jc
領域では基板に何らかの欠陥が存在し、それが低Jc領域の発生原因となっていることを指摘した。
2B-a03:宇佐美ら(名大、KEK、SRL)は、IBAD-MgO基板上に異なる添加量のBaHfO3ナノロッドを導入したGd-123線材を作製
し、Icの磁場依存性を測定した結果を報告した。
2B-a04:谷貝ら(上智大、明治大、京大、東工大、NIFS、㈱システムリンケージ)は、YBCO線材を用いた電磁力平衡コイル
作製に向けて、フラットワイズ曲げとエッジワイズ曲げが複合的に作用した場合の線材特性と複合歪の関係を把握するため
に、複合曲げ歪印加装置を開発し、Y-123テープ線材の測定結果を報告した。
2B-a05:菅野ら(高エネ研、大同大、原子力機構)は、RE-123線材に応力(変形)が加えられた時に実際にRE-123が受ける歪
(変形)を、低温で放射光を使った回折実験により測定する為の低温引張システムの開発を行い、人工ピン入り(Y, Gd)-123
線材に低温で引張負荷歪を与えたときの(Y, Gd)-123膜の内部歪を測定した結果を報告した。
2B-a06:長村ら(応用科研、大同大、NIMS)は、国内外4社製のRE-123線材の引張試験およびIcの引張歪依存性について報告
し、測定方法の標準化(規格化)についての検討を行った。


5月28日(木)
C会場 9:45-11:30

A15線材 2C-a01-06 座長 長谷 隆司

2C-a01:谷口(大阪合金)らは、高Sn濃度ブロンズ合金中に析出するTi基三元化合物の挙動について報告した。750℃
では、CuSn3Ti5が支配的になるが、550℃では替わってCuSnTiが支配的になることが示された。線材の加工に伴って、
ブロンズ合金マトリックス中におけるCuSnTiの分散度合が変化する。高Sn濃度ブロンズの加工性を向上させるためには、
CuSnTiの分散の制御が重要であることが考察される。
2C-a02:菱沼(核融合研)らは、ブロンズ合金マトリックスにZn添加して高強度化することで、線材全体を高強度化
することを目的として、種々のSn濃度やZn濃度を有するブロンズ母材を溶製し、Nb3Sn多芯線材を試作した。Nb3Snの
焼成熱処理により、Znはブロンズ合金マトリックス中に残存することが確認されたが、高強度化のためにはSnも残留
させる必要があることが示された。
2C-a03:伴野(物材機構)らは、内部拡散法Nb3Sn線材の銅マトリックス中にZnを添加して高強度化する方法について
報告した。Nb3Sn焼成後にZnはNb3Sn層には含まれず、Zn添加しない場合に比べて厚いNb3Sn層が生成することが示された。
銅マトリックスが合金化することにより、加工の途中で焼鈍が必要になる可能性もある。
2C-a04:大村(東北大学)らは、事前曲げ処理したCuNb/Nb3Sn線材をコイルに巻いた際に生じる曲げ歪みと臨界電流の
関係を計算で求めた。その結果、線材の臨界電流の引張り歪み依存性から、臨界電流の曲げ歪み依存性の実験結果を
うまく表すことができることが示された。なお、予稿集の解析式とFig. 3は誤りのため、訂正が行われた。
2C-a05:伴野(物材機構)らは、変態法Nb3Al線材のピンニングセンターとして、従来の粒内欠陥の他に結晶粒界の
可能性も考えられないか調べるため、HAADF-STEM分析やアトムプローブ分析等を用いて粒界の性状を調査した。その
結果、原子配列や組成の乱れは粒界でほとんど見られないことがわかった。しかし、ある粒界ではバリア材のTaの微小
な偏析が見られ、付加的な粒界ピンニングの可能性も示唆された。
2C-a06: 菊池(物材機構)らは、従来のNbやTaパイプではなく、NbシートとNiシートをバリアの原材料とし、急熱
急冷・変態法によりそれらをNb-Ni合金化した前駆体を作製するという新しい断面構成や方法を提案した。これによれば、
縮径加工中は良好な加工性が維持され、Nb3Alの焼成熱処理後には、最近問題になっている低磁場での磁気不安定性も
緩和される。今後、超電導特性の評価等を進めて、その高いポテンシャルが明らかに実証されることが期待される。


複合材料 2C-a07 座長 熊谷 進

2C-a07:小林(阪大) ITERにおける高速中性子に耐え得る絶縁材料の開発を目的として、シアネートエステルとエポキシ樹脂に
よる混合樹脂およびガラスクロス強化混合樹脂複合材料(GFRP)を対象に層間せん断強さに及ぼすγ線照射の影響について報告
している。10 MGyまでのγ線に対して、GFRPはITERの絶縁材料として十分な層間せん断強さを有していることを明らかにする
一方で、複合樹脂の場合では照射による分子鎖の切断を示唆しており、樹脂の照射損傷とGFRPの強度変化の関係について活発な
議論があった。


5月28日(木)
D会場 9:45-11:15

小型冷凍機 2D-a01-06 座長 井上 龍夫

極低温冷凍機(GM冷凍機)の蓄冷器形状、磁性蓄冷材のサイズや比熱など寒冷発生要素の基本的パラーメータの実験的検討
の発表が続いた。さらに冷凍機の応用として「自動車車載用の高温超電導モータ冷却」というチャレンジ性は高いが将来期待
される応用を想定した冷凍機の検討の発表が2件あった。
2D-a01(阪大ほか)では磁性蓄冷材としてErとHoの窒化物を用い、熱容量、粒径、充填率などが冷凍出力、到達温度に与える
効果を実験的に評価した。粒径の効果(最適値)は熱授受における等温性確保と流体抵抗損失のバランスで決まるが、本発表
の範囲では粒径が小さいほど効果は大きいことが示された。今後の検討課題を表面性状の改善による充填率向上とし、蓄冷器
効率の向上を期待している。
2D-a02(住友重工)では2 Kレベルまでの光子検出器冷却を目的にGM冷凍機の一連の小型化の取り組みとして、昨年度よりさら
に小型化を進めた結果を報告。蓄冷器のサイズダウンによる損失を蓄冷材変更による熱容量で補うなどにより、現製品に比べて
全長は40%近い小型化に成功している。この結果は広く一般的に使われているGM冷凍機の形状最適化や高効率化の余地がまだ
まだあることを示すものとして注目される。
2D-a03(大島商船高専)ではGM冷凍機の第二蓄冷器の高温側半分を二重管構造にして蓄冷器内の流動パターンを矯正した効果
を実験的に検討した。蓄冷器内の流体振動の分布については大口径で高周波数の場合の大きな偏流などの存在は知られている
が、低周波数である4KGM冷凍機の蓄冷器での検討はあまりないと思われる。二重管構造の内管径の違いにより冷凍出力が異なる
との実験結果からGM冷凍機の蓄冷器内でも径方向の振動流の速分布の存在を示唆するとしている。
2D-a04(中国同済大学)から室温ディスプレーサーを持つ形式のパルス管冷凍機の設計に関る発表があった。圧力振動源と
しての「リニア圧縮機」と位相調節器としての「室温ディスプレーサー」という二つの可動部を持つパルス管冷凍機である
ため、その両方の可動部のマッチングの重要性について数値計算により検討した。機械的振動と流体振動、さらに電気的振動
の共振を調整することが求められるので構造や調整の複雑さは否めないが、この方式は原理的には高い効率を実現できる有力
候補としている。
2D-a05、2D-a06(京大ほか)では自動車への車載を想定した超電導モータ冷却用の冷凍機開発の初期的検討の報告があった。
冷凍機としてはスターリング型冷凍機を採用し、a05ではそのリニア圧縮部の性能評価、a06では寒冷発生部として構成要素が
単純なパルス管冷凍部を採用して性能評価を行った。圧縮部のピストンの挙動解析には3次高調波の存在が確認され、また大きな
機械的摺動ロスの発生など、本実験により今後の課題も顕在化してきた。車載冷凍機の最終形態としては効率やコンパクト性の
高いリニアピストンを持つスターリング冷凍機とするとのこと。今回試作したパルス管冷凍部はあくまでも圧縮部の評価用と
いうことで、実測された冷凍出力は77 Kで31 W、そのときの入力仕事は約1.2 kWであり、COPとして約0.027が得られている。
課題は多いが最終的には200 Wの冷凍出力を目標としており、今後の挑戦と研究進展に期待したい。


5月28日(木)
P会場 ポスターセッションII 13:00-14:15

冷凍・冷却 2P-p01-06 座長 仲井 浩孝

2P-p01: 新井(NIMS, 千葉大)らは、古典モンテカルロ法を適用して磁気冷凍材料の物性計算を行った。スピンの配置と
向きをランダムに選択し、従来の平均場近似に比べて、磁気エントロピーの温度変化の計算で鋭いピークなどを求める
ことができるようになった。
2P-p02: 裏(金沢大)らは、磁気冷凍用La(Fe0.88Si0.12)13の水素化物がもろいため、樹脂成形体とした場合の比熱、断熱
消磁温度変化などの磁気熱量効果の評価を行った。水素化により転移温度が高温側にシフトし、室温付近での転移点制御が
解析通りに行えることが分かった。
2P-p03: 高橋(エア・ウォーター)らは、パルス管冷凍機のヘリウム圧縮機が高圧ガス保安法の適用を受けない範囲で70~
80 Kでの大出力を目指し、バッファタンク数などのパラメーターおよびバルブタイミングを最適化した結果、300 W以上の
冷凍能力を達成した。
2P-p04: 槙田(KEK)らは、自然エネルギー変動補償システムの1つである先進超電導電力変換システム (ASPCS) で用いら
れるSMESの技術開発を行っているが、液体水素による超電導磁石の冷却・励磁試験を行い、純アルミストラップによる伝導
冷却で定格の励磁に成功した。
2P-p05: 李(三菱電機)らは、温度制御可能な小型伝導冷却要素試験装置を用いて、主な冷媒の沸点以外の温度でも輻射
シールドにおける中間温度からの輻射熱負荷を測定した。従来の理論値よりも輻射率の温度依存性が大きいことが観測され
たので、今後はシールド板の輻射率の低減を目指す。
2P-p06: 河原(エア・ウォーター)らは、高温超伝導ケーブルの冷却に必要な液体窒素用遠心ポンプを開発した。出力および
回転数を最適化したモーターを開発し、ポンプの性能試験を行った。ポンプ本体は真空断熱されており、入熱はポンプの軸
動力とほぼ一致した。


直流送電 2P-p07-10 座長 川越 明史

直流送電のセッションでは,4件の発表があった。
2P-p07は中部大学の発表で,200 mの高温超伝導直流送電ケーブルの臨界電流測定結果について報告された。2009年に製作
された本ケーブルは、6回目の冷却が実施された後でも、劣化は生じていないことがわかったとのことであった。
2P-p08は鉄道総研の発表で、コンパクト鉄道用超電導ケーブルシステムに関して報告された。鉄道沿線の空間的な制約から、
冷却システムをコンパクト化する必要があることに対し、一体型冷却システムを採用したとのことであった。
2P-p09は鉄道総研の発表で、直流電気鉄道のき電系に使用する超電導ケーブルについて、短絡事故時の熱的特性を解析した
結果が報告された。冷媒の液体窒素の流路は、ケーブル中心と外側を往復していることから、定常時でも内層側と外層側の
超電導層に温度差があるものの、短絡事故時の超電導層の温度は、15度程度の上昇に抑えられるとのことであった。
2P−p10は鉄道総研の発表で、直流き電鉄道における回生失効や架線の電圧降下への対策として、超電導ケーブルと電力貯蔵
装置のそれぞれの導入による効果について比較した結果が報告された。変電所の入力エネルギーに対しては電力貯蔵装置の
導入が有利であり、変電所の最大出力の低減には、超電導ケーブルの導入が有利であるとのことであった。


核融合(1)/加速器 2P-p11-14 座長 吉田 清

加速器では、サイクロトロン超電導マグネットのスパイラルセクターコイルをGFRPやSUS304の容器で支持するコイル設計案
が紹介された。剛性の高いSUS304を用いると誤差磁場が改善される報告があり、医療用の加速器の小型化に応用できる可能性
を示した。核融合用分割型高温超伝導マグネットでは、常温でのインピーダンス測定が、極低温での接続抵抗の抵抗予測を
検討している。従来の超伝導導体の接続方法は、抵抗を実測して、抵抗が仕様を満足する製作法を決定して、その後は、
決定した製作法をそのまま実機に実施する方法を用いるのが現状である。常温での接続部の抵抗値を検査することは不可能
であった。今後の発展が期待される。


MgB2マグネット 2P-p15-16 座長 西島 元

MgB2コイルのクエンチ解析に関する発表が2件あった。いずれも,MgB2コイル設計(コイル保護)技術確立を目的と
しており、現状の解析コードでは不十分ということであった。
鈴木(神戸製鋼)は、MgB2コイルの保護設計技術確立のために、HyperTech社製MgB2線材を用いた小型コイル(内径80 mm,
外径103.6 mm, 高さ91.8 mm, 1302ターン, 4.2 K浸漬冷却)のクエンチ解析において,線材長手方向および径方向クエ
ンチ伝播速度の比を変化させたが実験結果を再現しなかったとした。原因として解析における線材長手方向クエンチ伝播
速度の見積もりが挙げられていたが,同時熱処理線材のIcがカタログ値よりも低いことから、何らかの原因でコイル巻線
にMgB2が十分生成されていない可能性もあることが懸念される。
一方,中川(日立製作所)はMgB2撚線(Cu素線4本+MgB2素線3本)を用いた小型コイル(内径100 mm, 25 K伝導冷却)の
クエンチ解析結果と実験結果を比較した。導体長手方向熱伝導のみを考慮した一般的な解析手法であるが、実験結果との
乖離が大きい。超伝導/常伝導転移への分流モデル導入や常伝導部分の与え方など、検討する必要がありそうである。


MRI用コイル 2P-p17-19 座長 野村 新一

MRIなど高均一磁場が要求される超電導マグネットを高温超電導化する際に問題となる遮蔽電流による不整磁場に
関して3件の研究報告があった。
2P-p17:渡邊(鹿児島大)らの研究グループは,Bi-2223多心テープ線材で巻線したコイルに外部から銅マグネット
で3.3 Hzの交流磁場を印加し,液体窒素中でBi-2223コイルの磁化緩和特性を評価している。
2P-p18:岡部(九大)らの研究グループは,HTS線をダブルパンケーキ状にしたコイルを芯にして銅トロイダルコイル
を巻き,この銅トロイダルコイルを交流励磁させて不整磁場を抑制する手法について実験的に検証している。原理
検証結果より,銅コイルの交流励磁の大きさを変化させることで遮蔽電流の減衰時定数が変化することが確認され,
今後,不整磁場の問題を議論する上で貴重な実験結果が得られている。
2P-p19:中園(早大)らの研究グループは,HTSコイルを分割配置(マルチコイル)とし,コイルの臨界電流以下で
励磁電流をオーバーシュートさせることで不整磁場を抑制させる実験結果が得られている。各々の実験結果はいずれも
貴重なものであるが,一例に過ぎないという印象は否定できない。今後は,遮蔽電流による不整磁場の抑制手法が
体系化され,通常の電気機器と同様にHTSコイルの設計・運転法が確立されていくことを期待したい。


Y系コイル応用 2P-p20-25 座長 田崎 賢司

本セッションでは、高温超電導テープ線材の磁化特性並びに分流特性についての発表が6件あった。
2P-p20:松田(東工大)らは、REBCOテープ線材での遮蔽電流を低減する新たな手法として折り曲げ力を利用した
フィラメント分離法(ESBS法)を開発した。従来はレーザなどで超電導層を物理的に分離する手法が主であったが、
ESBS法ではローラー状のブレードで線材表面を押し付けて線材に折り目を付けるだけで、物理的に分離した効果が得ら
れることを実験的に実証した。本手法はフィラメント分離の低コスト化に有効であると思われる。
2P-p21:鍋倉(九大)らは、REBCOコイルの磁化緩和で、コイル負荷率が高くなるにつれて遮蔽電流の減衰が急速に早く
なる現象があることを実験的に突き止めた。MRIなど遮蔽電流を早く減衰させたい場合にはこの現象を有効に利用できる
と思われる。
2P-p22:槻木(九大)らは、REBCOコイルに、スクライビング処理をした線材を用いることで、遮蔽電流による磁化緩和
時間を大幅に低減できることを実験的に示した。前記のコイル負荷率に関係した磁化緩和現象と組み合わせることで、
MRIなどで問題になりそうな磁化の影響を排除することが期待できる。
2P-p23:河原(九大)らは、テープ線材の並列導体での素線間電流分流のコイル径、n値、臨界電流値のばらつき依存性
について、数値解析により検討した。コイル内径やn値が大きいほど、また臨界電流値の素線間のばらつきが小さいほど、
分流比が均一に近づくことを示した。
2P-p24:曽我部(京大)らは、コサインシータ型二極マグネットなどの複雑な形状のREBCOコイル内の磁化分布を解析で
求める手法を開発した。本手法を用いることで、コイルの各ポイントでの電流密度分布をつぶさに解析することでき、
マグネット励磁に伴う線材磁化の影響や交流損失を定量的に評価することが可能になった。
2P-p25:勝俣(早大)らは、無絶縁REBCOコイルでの電源遮断時のエネルギー回収特性を評価した結果を示した。今後は
クエンチ時の解析も行い、無絶縁コイルの保護技術確立を目指す。




5月29日(金)
A会場 9:45-17:30

クエンチ保護 3A-a01-03 座長 小柳 圭

クエンチ保護のセッションでは3件の講演があった。
3A-a01: 今川(NIFS)は、大電流容量の超電導導体を評価する大口径マグネットのクエンチ保護回路に関して報告した。マグ
ネットは最高磁場13 T、内径700 mmで、Nb3SnとNbTi各コイルを遮断機で切り離して異なる時定数で減衰させる、保護抵抗の
一部をコイルと直列に配置する等の構成としている。大電流導体のほかコイルの耐フープ力試験等への試験環境の供与が期待
される。
3A-a02: 山口(住友電工)は、自社のBi系線材で巻く船舶用回転機向けコイルのクエンチ保護条件について報告した。コイル
は上下フランジで伝導冷却する構造で、電磁力を使って巻線部に押し付ける目的で材質をSUSから磁性体にしたところ徐熱
性能が向上し、保護可能な条件が増えたとの結論だった。
3A-a03: 佐々木(筑波大)は、液体水素冷却するBi系コイルの擾乱による熱伝播について報告した。水素とヘリウム冷却とで
熱伝導率の温度依存と熱伝達特性とが異なる点を考慮している。質疑応答では擾乱の条件の与え方が実際の事象と比べて妥当で
あるかに関して議論された。


REBCOクエンチ保護 3A-a04-08 座長 田中 秀樹

3A-a04 賈(早大)は、無絶縁REBCOパンケーキコイルの常伝導転移時における常伝導転移について、8の字コイルを用いた
転位位置検出の試みを報告した。
3A-a05 王(早大)は無絶縁REBCOパンケーキコイルにおける熱的安定性について報告、ターン間接触抵抗の重要性の議論
と、無絶縁コイルの適用可能範囲を明らかにしてほしいとの要望が挙がった。
3A-a06 水野(鉄道総研)および3A-a07 杉野(鉄道総研)から、浮上式鉄道用RE系磁石開発について、実機では8積層になる
レーストラック型パンケーキコイルのうち、1パンケーキコイルの試作・評価結果が報告された。冷却・通電特性、耐振動
特性ともに良好とのこと。
3A-a08 土屋(東北大)は、外挿LTSコイルのクエンチによる内層REBCOコイルの過電流について、外挿コイル磁場、保護抵抗
などの各種条件における過電流誘起試験結果を報告した。


産業・医療応用 3A-a01-06 座長 小川 純

3A-p01:長谷川(大阪大)らは、無針注射器による薬液の無新投与と外部磁界を併用することにより遺伝子導入効率の向上
する可能性を実験的に示した。
3A-p02:二ノ宮(成蹊大)らは、直流用超電導コイルの励磁用電源の試作として100個並列接続MOSFETを用いた低温用低損失
定電圧充電回路を作成し、提案回路の妥当性を示した。
3A-p03:横山(足利工大)らは、スターリング冷凍機を用いた卓上型超伝導バルク磁石の開発を行い、反復パルス磁化法に
より着磁実験を行った結果を報告した。様々な磁界印加パターンで試験を行い、発熱による影響により特性の劣化が起きる
ことを示した。
3A-p04:井上(芝浦工大)らは、バルク超伝導体を利用した完全非接触の送液ポンプの開発状況について報告を行った。回転
を安定させる目的で挟み込み磁石の効果が実証され、低速の回転域では軸ぶれがみられるが、1,500 rpmから3,000 rpmまで
安定して回転することを示した。また、水を循環させる実験を行ったところ1,800 rpmまで回転させることに成功したことが
報告された。
3A-p05:三戸(NIFS)らは、液体水素備蓄用高温超伝導磁気浮上コイルの検討結果について報告を行った。モデルとしては
直径40 m、総重量3,000 t、底部に4対の浮上用コイルが想定され、すでに内部導体プラズマ実験装置Mini-RTで実証例があり、
市販のDI-BSCCOを使用して作成が可能であることが報告された。
3A-p06:大迫(鹿児島大)らは、磁気浮上型液体水素貯蔵タンクに使用される高温超伝導コイルの冷却用ヒートパイプに
ついて報告を行った。解析により、窒化アルミを用いた場合に比べヒートパイプを用いた場合に温度上昇を十分に抑制できる
ことが示された。


HTSコイルPJ 3A-p07-11 座長 淡路 智

本セッションは、平成25年度より始まった経産省プロジェクト(平成27年度から日本医療研究開発機構に移管)「高温超伝導
コイル基盤技術開発プロジェクト」に関する報告をまとめたものである。最初に和泉氏が全体概要について説明し、続く4件
でその詳細を報告するスタイルであった。
3A-P07で和泉氏(超電導工研)は、医療用高温超伝導マグネット開発を実施する他のプロジェクトに対し、本プロジェクト
では基盤技術として、液体窒素運転を目指した高温領域の髙臨界電流密度化と,交流損失低減や磁場精度向上のためのスクライ
ビング技術に焦点をあてた線材開発を中心として実施していると説明した。特に磁場精度が強く求められる医療用マグネット
では,遮蔽電流の問題解決は必須である。次の講演では、岩熊氏(九大)が,遮蔽電流の影響について報告した(3A-p08)。
100 mの5 mm幅EuBCOテープを用いて作製したソレノイドコイルを3 T大口径超伝導マグネットに挿入し、液体窒素温度(77 K,
65 K)で発生磁場の時間変化を測定した。線材の遮蔽電流により磁場は時間と共に上昇する(緩和する)が、その時定数は通電
電流の増加に伴い増加し、80 A付近で最大となりその後急激に減少した。これは、Ic近傍で発生する電気抵抗によるものである
ので、コイルIc付近あるいはそれ以上に電流を一旦上げる過電流通電を行うことで、緩和時間を早めることが可能であるとした。
Hotspotの問題がある高温超伝導線材でも,熱容量が大きく熱暴走しにくい液体窒素温度近傍ならではの方法と思われる。次に
和泉氏(超電導工研)は長尺磁場中髙Ic線材の開発(3A-09)について発表した。ここでは、液体窒素温度近傍のIcを向上させる
ために、PLD法では、厚膜化してもJcが落ちにくいEuBCOにBaHfO3ナノロッドを導入した系が有効であると述べた。結果として
65 K, 3 TにおけるIc, minが411 Aの長尺線が作製できたと報告した。岩熊氏(九大)は、テープ線材に切り込みを入れて分割
するスクライビングの効果について述べた(3A-p10)。遮蔽電流は、テープ幅を細くすることで低減できることが理論的に予想
される。実際に5 mm幅EuBCO線材を4分割した線を用いて3A-p08と同じコイルを作製し、同条件で磁場の緩和について測定した
結果,顕著な緩和時間の減少が観測され、テープ線の分割の効果が実証されたとした。過電流通電と分割を併用することで,
磁場精度を飛躍的に高めることができると結論した。町氏(超電導工研)は3A-p10で用いた線材の分割方法についてその詳細を
述べた(3A-p11)。レーザーと化学エッチングを併用するこれまでの方法ではオーバーエッチングが起こり、剥離や特性劣化の
可能性が指摘されていた。しかし、現在用いているレーザーのみを用いる方法では,良好な分割断面が得られ、分割しても特性
が落ちないことが分かった。さらに、磁化測定をした結果,分割によって磁化の値が減少するとともに、その緩和時間も減る
ことが分かった。質疑応答において、臨界状態モデルでは磁化の減少については説明ができるが緩和時間の減少については理解
できないとの指摘があり、この点に関しさらなる議論が必要となった。セッション全体としては、特性向上と分割による遮蔽
電流低下により、液体窒素運転MRIなどの実用が期待されるが、高温運転になることで、比熱や熱伝達特性などの物性値が低温
とは異なるためその点を考慮する必要があるのではないかとの指摘も議論のなかで出された。液体窒素運転の可能性がでて来た
ので、応用化研究の観点から,安定化や保護と言った高温運転に伴う課題の抽出と最適化の研究を進めることが今後必要と思わ
れる。


高磁場MRI PJ 3A-p12-16 座長 今川 信作

この研究プロジェクトは、日本医療研究開発機構の未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業「高磁場コイル
システムの研究開発」を通じて実施されており、今年度が3年目の最終年度となる。小型の10 Tコイルと1.5 Tのモデル磁石
の試作・検証を行い、その知見を元にヒト全身用10 T級MRI磁石の基盤技術を確立することを目指している。最初に東芝の
戸坂よりプロジェクト進捗の全体説明が行われ、その後に、4件の発表が行われた。
「1/2サイズコイル試験」においては、口径400 mmのReBCOパンケーキコイル12枚を長手方向に4箇所(4枚,2枚,2枚,4枚)
に集めて配置し、100 mmの一様磁場空間の不整磁場がホール素子の測定精度0.1%以下であることを確認したこと、また、
コイル巻線寸法として0.2 mmの精度を確保するためには線材自体の公差管理も重要となることが報告された。
「含侵無絶縁コイル試験」においては、口径50 mmと200 mmの2つの含侵無絶縁ReBCOコイルを試作し、無含侵と同程度に
小さい層間接触抵抗が得られたことや臨界電流の1.5倍の電流値まで熱暴走なく通電できたことが報告された。
「極小口径10 Tコイルの遮蔽電流磁場解析」においては、口径50 mmの小型コイルの遮蔽電流を独自の3次元電磁場数値解析法
で評価し、測定値と比較した結果、線材の磁場強度・角度依存性が分かっている場合には、比較的に良く一致することが
報告された。解析と実験の比較には線材特性データの実測が必要である。
「均一磁場コイル最適化設計」においては、コイル全体を均一電流とする場合、各パンケーキを均一電流とする場合、ReBCO
層のみに電流に流す場合の3通りについて、不整磁場成分を計算すると、100 ppmオーダーの差が生じることが報告された。
ReBCO層だけに流れることを考慮した計算は計算量が膨大となるため、引き続き、計算時間短縮の研究を行う予定である。




5月29日(金)
B会場 9:45-15:30

Bi系線材 3B-a01-03 座長 松本 要

本セッションにおいては3件の発表があった。最初に菊池昌志氏(住友電工)から同社で今春リリースした高強度型DI-BSCCO
線材の機械的特性に関する発表があった。これは補強材として従来の銅合金やステンレスに代わり、高い降伏応力を示すNi
合金を用いたもので500 MPaを超える引っ張り強度を有するものである。報告では400 MPaの応力下での高い信頼性試験の結果
が発表された。
古木昌宏氏(東大院)からはBi2223線材の低酸素分圧下におけるIc制御の結果が報告された。銀シース線材を低酸素分圧下の
3%O2/Ar気流中にて1次焼成を行うことで不純物相の粗大化を抑制する手法を用いて、その後ロール圧延して2次焼成を行った
ところ、低温短時間で良好な結果を得られたとのことである。
3件目は武田泰明氏(東大院)によるBi2223焼結体のJc制御の報告であった。同様に低酸素分圧下の3%O2/Ar気流中にて1次焼成
を行った後、緻密化のために1軸プレスを行い、粒間結合が強くなる条件を調べている。その結果、300 MPaで密度は高くなった
がマイクロクラックが発生することが分かった。これよりJcにおいては100 MPaのプレス圧力が適していることが明らかになった。
 

交流送電 3B-a04-06 座長 浜辺 誠

交流送電のセッションにおいては、3件の発表があった。
「3B-a04:大屋(住友電工)」らは66kV級超電導ケーブルの地絡事故に関する検討として、銅板・絶縁層シートなどでケーブル
を模擬したシートサンプルの地絡試験の結果について報告した。1.5 kA-2 sの地絡電流を想定した場合、アークエネルギーが
300~450 kJとなること、保護層の設計で断熱管へのアーク貫通を防げることなどが確認された。
「3B-a05:安井(早大)」らは66 kV系統で想定される最大値31.5 kA-2 sの短絡電流に対する冷媒の温度・圧力解析を実規模
サイズの3 kmのケーブルにおいて行なった。その結果の一例として入口温度68 K、圧力500 kPaのLN2を想定すると、約100 sで
3 km下流の温度が飽和温度に達したことなどが報告された。
「3B-a06:石橋(鹿児島大)」らは、三相同軸高温超電導ケーブルの交流損失の測定法として、ポインチングベクトル法の応用を
提案し、その模擬実験として、電界・磁界の測定素子を備えた三相同軸の銅パイプを液体窒素中に設置し、銅パイプで実測した
渦電流損と有限要素法での解析結果とを比較し、よく一致することを示した。


核融合(2) 3B-p01-06 座長 中本 建志

本セッションでは、ITER-TF製作2件、JT-60SA及びLHD関連各1件、ヘリカル核融合炉FFHR関連2件と、各プロジェクトから
万遍なく研究成果が報告された。
3B-p01: 井口(原子力機構)は、ITER TFコイル構造物の製作に関する報告を行った。コイル構造物は、各パートを溶接
により製作するため、変形量の制御も含めた溶接品質が特に重要となる。小規模、実機規模の試作を元に製作方法の洗い出し
や寸法管理値を決定し、実機1号機の製作に進んだ。1号機製作は、2号機以降の基準となるため、特に各製作ステップ毎に
溶接変形を確認しながら製作を行った。規模的にもやり直しが非常に困難であるため、慎重かつ段階的にプロジェクトを
進めている様子がうかがえる。
3B-p02: 前の発表と関連して、ITER TFコイル構造材料の極低温引っ張り特性評価について、櫻井(原子力機構)が報告した。
コイル構造材に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼は、要求降伏応力に応じて4段階のカテゴリーに分類されるが、最も
厳しいものは1000 MPa@4 Kを超える高い降伏応力が求められる。品質管理方法としては、常温での特性試験結果から4 Kでの降伏
応力を予測する方法を採用しているが、その正当性を確認するため、本研究では代表的な試料について実際に4 Kにおいて測定
を実施した。この結果、全ての試料が仕様値を充分に満足していることが確認できた。
3B-p03: ITERのサテライトトカマクとしてJT-60SAの製作が進行中だが、超伝導マグネットの極低温設備の製作状況について
吉田(原子力機構)から報告があった。建屋の建設も含め、大型ヘリウム冷凍機(9 kW@4.5 K)や25 kA級HTSフィーダーなど
の製作は順調に進んでいる。
3B-p04: 高畑(NIFS)からは、大型ヘリカル装置LHD・ポロイダルコイルにおける冷媒圧力損失に関する報告があった。
ポロイダルコイルはケーブルインコンジット導体を使用しており、異物等によるヘリウム冷媒流路の閉塞が懸念される。17
年間の運転における冷媒圧力損失を観察したが、運転停止に至る冷媒閉塞は起こらず、長期信頼性が実証された。むしろ長期
的には緩やかな減少傾向すら観測された。ただし、圧縮機の油交換を原因とする一時的な圧力損失の上昇は発生しており、
施設維持管理の重要性が再認識させられた。
3B-p05, p06: いずれの報告も、将来のヘリカル型核融合炉FFHRのHTS超伝導磁石システムの肝となる積層型HTS導体(STARS
導体)に関するものだった。柳(NIFS)が計画の概要と研究開発のハイライトを報告した後、寺崎(総研大)がSTARS導体の
臨界電流解析について報告した。3m長の試作モデルでは、誘起電流により、5.3 T磁場中で100 kA通電し、されに1時間保持する
事に成功している。非常にユニークかつチャレンジングな研究テーマであるが、従来の技術的枠組みとは異なったアプローチ
であり、興味深い。


高エネルギー加速器 3B-p07-09 座長 柳 長門

3B-p07 細山謙二(KEK): 米国ミシガン大学で建設計画が進められている超伝導重イオン線型加速器FRIBに用いられるNbTi
ソレノイドコイル(内径40 mm、長さ250 mm、中心磁場8 T、電流100 A)について、KEKで試作が行われた。これには、これまで
冷凍部会の夏合宿実習で多数製作された7 Tソレノイドコイルの技術が応用された。冷却・励磁試験が行われた結果、トレー
ニングを含めて所定通りの性能が得られ、液体窒素を用いた熱サイクル試験を行った後もクエンチせずに最大磁場まで到達
できることが確認された。
3B-p08 榎本瞬(KEK): CERNのLHCアップグレードに用いられるダイポールマグネット(口径150 mm、全長7 m、磁場5.6 T、
電流12 kA、温度1.9 K)について、機械構造設計の検証や製造工程の確認のため、コイルの直線部の断面形状を模擬する200 mm
長のショートモデルが開発されている。内側から超伝導コイル、非磁性鋼カラー、鉄ヨークの順に配置されている。詳細な設計
と綿密な工程の吟味により、0.1 mm以下の寸法精度で製作できるとともに、必要な周方向予備応力(90 MPa)も印加されること
が確認された。
3B-p09 王 旭東(KEK): 小林・益川理論を実証したKEKB加速器のアップグレードSuperKEKBの建設が進められている。SuperKEKB
のビーム衝突領域に設置されるBelle-II測定器の磁場補正に使われる超伝導ソレノイドESLの励磁試験が行われた。ESLは12個の
ソレノイドコイル(内径77.9 mm~145.3 mm、長さ40.35 mm~93.05 mm)から構成された複雑な形状をしているが、設計電流404 A
までトレーニングなく励磁でき、測定された中心軸上の磁場分布も解析結果と0.1%以下で一致することが確認された。


5月29日(金)
C会場 9:45-15:30

Y系バルク(1) 3C-a01-04 座長 岡 徹雄

堀井滋(京大、3C-a01)らは、変調をかけた回転磁場を用いてREBCO超伝導粉末を配向させる研究を行い、これが希土類
元素の種類によって2~10 Tの磁場印加で配向可能なことを示した。また、材料が含む双晶がもたらす結晶配向への影響
を述べた。この研究はバルクのみならずRE系薄膜線材における膜成長の配向と通電性能に重要であることを示唆した。
太田仁孝 (東大、3C-a02)らはY系バルクの粒界特性に及ぼすCaドープの影響を調査し、Caが均一に材料内に分散して
いることを示し、結晶成長によって粒界部分に残る介在相を明らかにした。
松田和也(日立、3C-a03)は小型のMRIへの応用をめざした円筒型のバルク磁石を構成してその捕捉磁場性能を調査した。
リング状のバルク材を最大6個組み合わせてその空間の磁場分布を評価したところ、NMRに応用可能な優秀な磁場の空間
均一性が得られた。さらに、作成したこの磁場空間内でのMRI画像の撮像に成功した。
森田充(新日鉄住金、3C-a04)らはQMGバルクを円筒状に加工してこれに10 Tの強磁場を捕捉させた場合の応力発生を
歪みゲージを用いて直接測定し、磁場捕捉による歪みの分布と磁場強度による変化の挙動を明らかにした。


Y系バルク(2) 3C-a05-08 座長 松田 和也

本セッションでは、Y系およびMgB2バルクの着磁特性に関する4件の発表がなされた。
3C-a05:望月(岩手大)らは、段階的にY211相濃度を変化させた前駆体を用いて作製したGraded YBCOバルクの捕捉磁場
特性を評価し、Graded YBCOバルクの外周部は、Y211相濃度を変化させないバルクと比べてJcが高くなり、磁束が逃げにくく
なっている可能性があることを報告した。
3C-a06:岡(新潟大)らは、単一パルスによるGd系バルクの捕捉磁場散逸現象について評価し、ミクロな材料不均一に
起因した異なる散逸現象が現れることを報告した。これを回避する方法としては、熱特性の良い元素の添加により発熱時
の温度上昇を抑えることが有効であると述べた。
3C-a07:遠藤(岩手大)らは、SPS法で作製するMgB2バルクにおいて、ボールミルにより結晶粒径の微細化を行い、HIP法
バルクや微細化無しのSPSバルクと比較して高磁場側でのJcが向上したことを報告した。
3C-a08:山本(東大)らは、ボールミルにより微細粉砕したマグネシウムとホウ素を用いたMgB2バルクの着磁磁場特性を
検討し、粒径微細化、および欠陥導入による粒界ピンニング力の強化によって、捕捉磁場が最大で3.72 Tに向上したこと
を報告した。


人工ピン・鉄系基礎特性 3C-p01-06 座長 藤吉 孝則

本セッションでは、高温超伝導体や金属系超伝導体における人工ピンと鉄系超伝導の基礎物性について議論した。
3C-p01:堀出(九工大)らは、PLD法を用いてナノロッドを導入したYBCO薄膜において、ナノロッドの導入量に応じてTc
低下するメカニズムについて報告した。有限要素法による弾性解析や第一原理計算を用いたシミュレーションと実験との
比較を行い、Tcの低下を定量的に評価した。
3C-p02:草深(名大)らは、PLD法においてSmBCOターゲットとBa2SmNbO6ターゲットの交換法を用いてBSNO添加SmBCO薄膜を
作製した。BSNOはBMOと比べ太く数密度が小さいナノロッドを形成することを報告した。また、BSNOの添加量が多くてもTc
Jcが急激に減少しないことを示した。
3C-p03:中村(名大)らは、スパッタ法で作製したNb薄膜にナノ電極リソグラフィー技術により、格子間隔1 μmのドーナッツ
形状やドット形状の四角格子の人工ピン(酸化ニオブ)を導入した。いまのところ輸送特性に十分な人工ピンの効果は見られて
いないことを報告した。
3C-p04:下山(青学大)らは、90 K級超伝導体であるRE247の簡便な合成法を新たに開発して、その微細構造や超伝導特性
について報告した。この方法で、Y247、Pr247、Nd247を合成して焼結体を得ている。また、RE247の微細組織はRE123やRE124
と大きく異なっており、平板状の大きな結晶が成長することを示した。
3C-p05:石田(産総研)らは、自己フラックス法を用いて鉄系超伝導体(Ba,K)Fe2As2の単結晶を作製した。また、その磁化
ヒステリシス曲線から測定した臨界電流密度特性を報告した。臨界電流特性は、Tcとは異なるKドーピング依存性を示すこと
を明らかにして、アンダードーピング領域でJc特性が良いことを報告した。
3C-p06:中島(慶大)らは、144Sm を用いてSmFeAsO1-xHyの同位体効果を調査した。SmFeAsO1-xHy多結晶試料において天然
存在比のSmを用いた試料と144Smを部分置換した試料を高圧合成法で作製して、磁化の温度依存性からTcを測定した。得られた
同位体効果は、他の研究者の報告と一致していることを示した。


MgB2線材 3C-p07-09 座長 児玉 一宗

本セッションでは、MgB2線材の高臨界電流特性化について2件、非破壊検査について1件の発表があった。
3C-p07: 葉(物材機構)らは、MgB2の生成温度付近で蒸気となるCoroneneを添加することで、ホウ素サイトの炭素置換が
均一かつ良好に進み、in situ PIT法,内部拡散法のいずれの場合でも良好なJc特性を得られることを示した。また、
Coroneneを直接添加した場合と、あらかじめ密閉容器中で加熱してホウ素表面をコーティングした場合について比較した。
3C-p08: 熊倉(物材機構)らは、in situ PIT法における低い充填率の課題に対し、外層シース材の一部を従来のFeから
より硬度の高いTaに変えることで加工中にMgとBの混合粉の高充填率化が進み、Jc特性が高まることを示した。
3C-p08: 井上(九大)らは、X線マイクロCTを用い、内部拡散法によるMgB2線材内部の非破壊検査をした。複数の透過像の
重ね合わせ処理によりS/N比を高めることで、X線吸収率の低いMgB2を空隙と識別できることを示した。これまで困難であった
微細組織の均一性についてより詳細に解明する協力なツールになると期待される。


5月29日(金)
D会場 9:45-14:00

流動特性/熱伝達 3D-a01-04 座長 武田 実

3D-a01大平(東北大):液体水素を燃料とする極超音速予冷ターボジェットエンジンの始動時における気液二相流動状態
を把握するために、形状の異なる2種類の水平コルゲート管を流動する気液二相液体窒素の圧力損失、流動パターンを明らか
にした研究である。熱平衡クオリティとコルゲート管形状をパラメータとして、圧力損失を予測できる式を提案した。
3D-a02大平(東北大):スラッシュ水素を利用した高効率水素エネルギーシステムの確立を目指して、スラッシュ窒素が
水平正三角形管(無酸素銅製、3種類の断面姿勢)の内部を流動する際の圧力損失低減、伝熱劣化を調べた。水平正三角形管
の結果と円管の結果を比較するとともに、両者を統一的に予測できる圧力損失評価式を提案した。みかけの粘性係数について
の議論等があった。
3D-a03塩津(京大):液体水素冷却高温超電導機器の冷却設計や安定性評価を行うために、矩形ダクト内片側平板に張り
付けた平板発熱体(幅の異なる2種類)の液体水素強制対流DNB(Departure from Nucleate Boiling)熱流束を調べた。矩形
ダクトの場合、平板発熱体両端が特異性を持つので、垂直円形流路の場合と同じように等価直径を用いてDNB熱流束を取り
扱うことはできないと結論付けた。
3D-a04達本(原子力機構):液体水素の定常・過渡熱伝達特性に関する研究の一環として、サブクール液体水素の強制流動
下での円管流路中心垂直発熱線におけるDNB熱流束を調べた。加熱長さや流路径をパラメータとして、サブクール度、圧力、
流速を変化させて実験を行い、DNB熱流束の表示式が円管発熱体と同じ表式で表せることを明らかにした。発熱線の表面温度
の求め方についての議論等があった。


計測/水素吸蔵 3D-a05-08 座長 島崎 毅

3D-a05武田(神戸大)らは、液体水素用液面計の開発の中で、従来よりも切り出しサンプル数を増やしたMgB2長尺線材の超伝導
転移温度等の特性を評価した。線材の断面観察も行い、特性が他と外れるサンプルの断面形状が歪であることを見出した。
また、試作した5本の液面計の液面検知特性は良く揃い、別途液充填時などの動的液面変化も検知可能であることを確認して
いるとのことであった。
3D-a06はキャンセルとなった。
3D-a07河江(九大)らは、パラジウム線を引き延ばして形成したナノコンタクトに、液体水素中18 Kで電圧を印加した際の
微分伝導度の変化から、トンネル効果による水素の吸蔵と拡散を観測した。またさらに温度を下げた状態での実験も行って
いるとのことであった。液体水素のオルソ・パラ変換が吸蔵・拡散にどのように影響するかにも興味があるとコメントがあった。
3D-a08河江(九大)らは、パラジウムの細線を用いた金属への水素吸蔵・拡散過程を観測するVibrating wire法を開発した。
この方法はナノコンタクトを用いた観測法とは違い、パラジウムにバイアス電圧を印加せずに吸蔵・拡散過程を観測できる
特徴がある。室温で水素ガスを用いて動作を確認した。また共鳴周波数変化の不可逆性と実験前後のパラジウム細線のSEM
写真から、水素脆化が起きている可能性を指摘した。低温での実験結果からは、吸蔵速度が大きく減少することを確認した。


磁気冷凍機 3D-p01-04 座長 齋藤 明子

【3D-p01】「磁気熱量効果を用いた調湿システムの基本特性」長嶺(東工大)ら:磁性材の磁気熱量効果による温度昇降と
高分子収着材による水分子の吸脱着を組み合わせた調湿システムの基礎検討について報告した。表面に収着剤を塗布したGd板
を用いて磁場の印加/除去によりGdの温度を変化させることで空気中の水分を脱着/吸着し、湿度を制御できることを実証
した。空気の湿度や流量をパラメータに脱着反応終端までの時間および脱着量を調べて基本特性を把握した。磁気熱量効果
による温度降下と吸着反応による発熱の両者のオーダーや熱散逸との関係について質問があったが、Gdの温度モニターなど
による詳細検討は今後との回答があった。磁気熱量効果の新たな応用の可能性を示した。
【3D-p02】「車両空調を目指した磁気ヒートポンプシステムの熱損失評価」宮崎(鉄道総研)ら:室温磁気ヒートポンプに
用いられるAMR(能動的蓄冷式磁気冷凍)サイクルにおける熱損失について報告した。デッドボリュームにおける熱混合ロス
を極力排除するためにディスプレーサー方式を採用し熱損失評価に特化した小型のAMR基礎試験機(Gd球;46 g,磁場;約1 T)
を作製し、熱交換流体の流量と熱交換時間をパラメータにAMR室両端に生成される温度差を実験および数値解析の両面から
検討した。AMR室表面の断熱損失,AMR室端部での熱交換流体の混合損失、AMR室内部における無効流の影響、低温端部からの
侵入熱などの要因を反映した数値解析によれば実験結果をよく表すことができた。冷媒と磁気作業物質の熱容量比に関する
Γ=mfCfτ/MsCsが0.5程度の場合に温度差が最大となる。
【3D-p03】「室温磁気冷凍機のキュリー温度の異なる材料充填時の性能」有田(東工大)ら:AMRサイクルにおいて,異なる
TCTC = 20℃,15℃,10℃)を持つ3種のGd合金球状粒子を1:1:1で充填(計1.13kg)し、磁場0.98 T,サイクル周波数2Hz
で運転して、生成温度差の熱輸送媒体(水)の流量依存性などを評価した。一次元モデルによる数値解析によれば,Gd単体から
3種積層にすることで温度差が16℃から21℃まで拡大することが示された。一方、実験で得られた温度差は4~5℃と低く,理想
状態を仮定した数値解析結果とは乖離が見られた。磁気作業物質と熱輸送媒体との熱伝達率をRanzの式から導出される値の
20%とすると両者は概ね一致し、冷媒が壁面近傍を多く流れることにより作業物質との熱交換が十分でない可能性を挙げた。
【3D-p04】「2段式断熱消磁冷凍機の特性」福田(千葉大,NIMS)ら:TES型X線マイクロカロリメータによる宇宙背景放射の
偏光測定を実現するために、100 mKを安定に維持できる冷凍機を目指して、GM冷凍機で冷却した4 Kの予冷段と組み合わせた
4段断熱消磁冷凍機(ADR:Adiabatic Demagnetization Refrigerator)の開発を進めている。リード線としてHTSのREBOCO線材
を用いることで熱侵入を大幅に低減し、2段ADRで700 mKまでの冷凍に成功した。今後、Passive型Gas-gap熱スイッチの適正化
により高性能化を図るとのことであった。